オペ室などの看護婦話

■チェックナースシリーズ1「恐怖のチェックナース」■
 看護学生の頃、病棟へ実習に出るんですが、そこで一番気が重くて怖いものがある。それが「チェックナース」と呼ばれる、バリバリにデキる妥協を許さない気の強いおっかないベテラン級看護婦。 その人の元で直接指導を受けようがそうでなかろうが、その人の存在自体が怖い。 学生にこまかいチェックを入れてくるから「チェックナース」なのか、怖いから要チェック人物という意味で「チェックナース」なのか。 とにかく◯-◯病棟の「チェック」は**さんだという噂は病棟実習に出る学生にとってものすごく重要。
「チェックナース」は出来る人なのでばかな学生がうっとおしくて嫌い。
「チェックナース」は忙しいので背後からついて回る学生が嫌い。
「チェックナース」は朝の一番忙しいときに、今日の目標は・・・とか言ってもじもじ話しかけてくる学生が嫌い。
「チェックナース」は何をしていいかわからずナースステーションでカルテをぼーっと眺めている学生が嫌い。
「チェックナース」は何も勉強してきていない上にとんちんかんな質問をしてくる学生が嫌い。
「チェックナース」はその日の看護記録を書くのに1時間もかかる上にちっとも的を得ていない記録のメモ書きを、見ていただけますか?ともじもじもってくる学生が嫌い。
こういう雰囲気がその人には漂っている。だからあんまり予習をしてこなかったりする負い目のある学生は「チェックナース」が百倍怖い。


■チェックナースシリーズ2「チェックナースへのトラウマ」■
 私も学生のとき1度だけその病棟のチェックナースと呼ばれる人に直接指導を受けるハメになったことがあります。きつめのきれいな顔立ちの看護婦さんでした。終末期の患者の看護を課題とした、けっこう重い病気の患者さんを受け持つたいへんな実習でした。そういうときにチェックナースに神経を使いつつ、冷たい態度をとられたり、きつい言葉で指導されたり、患者さんは状態がだんだん悪くなっていくし・・・。
うじうじしている間に時が過ぎ実習は終わったのですが何とも歯切れの悪い実習でした。そしてそれ以来私は病棟の看護婦さんが怖くなってしまいました。自分が看護婦になってからもです。病棟ナースから患者さんの引き継ぎを受けるときも、オペ室から患者さんを引き渡して引き継ぎをするときもなんだか怖い。ドキドキ。廊下で見知らぬ看護婦とすれ違ってもなんだか怖いと感じてしまう。ほかの病院の看護婦さんを見ても何とも思わないんだけどな。
学生時代の体験がトラウマとなって無駄に私をどぎまぎとさせてしまうのでした。


■力が抜けるBGM■
 なんの手術だったか忘れてしまいましたが、ある日の朝ある中年男性患者の手術室は異様な雰囲気に包まれていました。
その原因は患者さんが持ち込んだ「マイさぶちゃんCD」。そう、すがすがしい(?)朝だというのにその手術室には北島三郎の演歌がうずを巻いて流れていたのです。 その患者さんは北島三郎の大ファンで、自分を力づけるためにこの曲を・・・と術前訪問に来たオペ室ナースにそのCDを託したそうです。
 緊張がピークに達する手術室で、その患者さんが大好きな曲をいつも聴けるならば、緊張を解きほぐす良い要因にはなるのですが・・・。手術室で演歌を聞き慣れていない私たちにとってはなんか力が抜けるというか、笑っちゃうと言うか、そんな朝でした。


■お嫁に行けない3点セット■
 手術室の夜勤では、手術がなければ深夜に仮眠をとることができるんです。当直室には3台のベッドが並んでいますがその中の、右端のベッドは独身看護婦たちに密かにおそれられ、「お嫁に行けないベッド」と呼ばれています。特徴は以前患者さん用に使っていたと思われるちょっとガタの来ているピヨピヨ鳴るベッド。いつから使っているのかわからないくたくたになった掛け布団。安眠を妨げるほど固いそば殻の枕。 電話に一番近い左側のベッドは、もちろんその日のリーダー看護婦が使います。真ん中は時計の音がちょっとうるさいけど、もう一人の先輩看護婦がつかいます。・・・というわけで、お嫁に行けないベッドはいつもしたっぱ看護婦に使われるのでした。「ピヨピヨベッド・くたくた布団・そばがら枕でおやすみなさい。朝まで緊急手術が来ませんように!!!」


■すがおに!!!■
 手術室ではドクターもナースもいつもの白衣を着替えます。髪の毛をすべて覆い尽くすシャワーキャップのような不織布の帽子。鼻から口、あごを覆い尽くす大きなマスク。白ではなく水色やピンク、緑などのユニフォーム。で、はだしに(ストッキングや靴下の人もいる)サンダル。実用的で大変結構ではありますが、困ることもたまにはあります。それは素顔がわからないこと!手術室ではドクターや看護婦がひとつ部屋の中数時間も行動を共にしていますが、マスクや帽子のせいで相手を目と背格好、声だけで認識せざるをえません。だから病棟へ足を運んだときや飲み会の待ち合わせの場所で、初めてその人のすべての姿を見たとき、驚いたり納得したりがっかりしたりしてしまいます。「あれっ!髪の毛うす〜い」「わっ!口でかーい」「ヒゲはやしてるんだ〜」「目と声だけならすてきなおじさまなのに〜」などなど、決して口には出せませんが普段手術室内で築き上げてきたイメージがはかなくも崩れ去ります。ドクターも私たちの素顔を見て「目だけならアムロちゃんそっくりなのにな〜」とがっかりしてるかも。


■私自身の手術の経験■
 私が手術を受けたのは1回だけです。病名は虫垂炎。いわゆる「もうちょう」です。中学3年の秋、そのころ学年でなぜか盲腸患者が続発。そのトリを飾るべく私もなってしまいました。近所の総合病院に運ばれ、とりあえず痛み止めでも打ってもらったのかおなかの激痛も落ち着きいざ手術室へ。
 まずは麻酔を受けました。腰椎麻酔で、見えない背中に針を刺されるのがものすごく怖かったです。さんざん動くなといわれましたがずいぶん暴れました。看護婦になって患者さんを介助する側にたつとこのときのことを思い出し、よくみんなじっと耐えてるな〜と感心しました。
 で、さあ手術が始まるぞ、というときにひとつハプニングが。手術室内に響きわたるすざまじい金属の落下音。たぶん私の虫垂炎の手術に使う器械を全部落としてしまったのでしょう。床に落としたら滅菌器械ではなくなってしまうのでそれは使わなかったはずです。私が働いていたときもたまに大切な器械を落としてしまうことがありましたが、タイミングによってはひやあせもの、平身低頭、申し訳ございませんの嵐でした。だってそれだけのために手術を進められなくなるんですから。でも私の盲腸の時は無駄な待ち時間もなく、手術自体は無事終わりました。でも途中胃が引っ張られるような感じがして気持ち悪かったです。
 最後皮膚を縫うときに先生が「ビキニが着れらるようにしてあげるからね〜」なんて言ってきれいに縫ってくれたようですが、ちょっと着れらません。傷の長さは3〜4センチ。そのときは怖かったけれどよい経験でした。


■戴帽式のこと■
 「待望の戴帽式!」というつまらないギャグはおいといて。
 私が通った学校では1年生の冬に戴帽式をすることになっています。それまでは学校内でクラスメイト同士練習しあった看護技術を、これから病院にいる実際の患者さんに接して生かすにあたって、看護の道を志したあの時(それは人それぞれ)の思いを新たに、そしてみんなで神に誓おうという趣旨の行事です。
 先輩看護婦である学科長の先生から一人一人頭に帽子を載せていただき、みんなで「ナイチンゲール誓詞」を暗唱。最後に会場の電気を消してキャンドルサービス。歌う曲は「マイウェイ」のハミング。なぜかこれでみんなツツーッと涙を流してしまうんです。私もちょっと泣いてしまいましたが、今考えるとなぜ泣いてしまったのか、そしてみんなもなぜ泣いていたのかわかりません。あの独特な雰囲気の魔力だと私は思います。
 今度写真をのせますね。


■手術室の人々■
婦長
 手術の申し込みに応じて、手術のスケジュールを組み、その手術にスタッフ(看護婦)を割り当てていきます。看護婦と日頃からコミュニケーションをとって、健康状態を把握したりしてスタッフが最も良いコンディションで手術に望めるように気配りもします。Dr.や病棟、他の部門のスタッフや業者とのやり取りもします。次の一ヵ月のスケジュールを組んだり、お給料袋を手渡してくれるのも婦長です。
主任
 どの手術をどの看護婦が担当するかを2日前までに、さまざまな兼ね合い(看護婦個人の能力や、ペアの看護婦同士の相性、看護婦とDr.の相性などいろいろ)を見て決定します。また日々のスケジュールの管理もしていて、緊急手術への対応や看護婦の昼食交代などのやりくりも主任のお仕事。手術に必要な資材を業者から請求したり…。看護婦でありながら、看護婦のお仕事ができない忙しい役職です。
看護婦
 役割で分けると2役あります。看護婦は主任の立てたスケジュールにもとづいて、どちらの役もころころこなさなくてはなりません。看護婦2人で一人の患者さんの手術にあたります。
直接介助(手洗いナース)
 いわゆる、Dr.に「メス」といわれて「はいっ」とメスを渡したりする役。滅菌ガウン、滅菌手袋と帽子、マスクを身につけて、Dr.の要求する器械をさっと手渡します。
間接介助(外回りナース)
 いわゆる、Dr.に「あせ」といわれて「はいっ」と汗を拭いたりする役。でも汗ばっかり拭いているわけではなくて、メインは患者さんのケア。麻酔がかかる前のどきどきしている患者さんに声をかけて、緊張をほぐしたり、手術中も患者さんに異常がないか、観察したりしています。

外回り

手洗い
医者
 ドクター(Dr.)とか先生とか呼んでいます。手術室に出入りしているDr.の数は本当に多い。手術をするのは「外科」だけではないんです。外科も、消化器外科、心臓外科、呼吸器外科、脳外科、小児外科と別れているし、耳鼻科、産科、婦人科、眼科、形成外科、整形外科、泌尿器科、皮膚科、たまに内科、精神科も手術室を使います。そして忘れてならないのは麻酔科。この人たちがいないと手術が始まりません。意外にも手術室は人がいっぱいで、おじさん(Dr.)たちの熱気で熱いんです。
 当然といえば当然なのかもしれませんが、科ごとでDr.の性格傾向に特徴があります。例えば、外科は「体育会系」。皮膚科は「ちょっとタクい」。産婦人科は「混沌と」していて、整形外科は「かっこつけ」。泌尿器科は「親し気」。あくまでも私個人の印象ですが、皆さんも機会があったら、そんな視点で見てみてください。


■手術と音楽■
 最近オペ中に好んで音楽などを聞きたがるDr.が多くなってきたような気がします。手術中のBGMは術者の緊張を和らげるだけでなく、局所麻酔など患者さんの意識がある場合には、患者さんのためにも良い効果があります。では何を聞いているかというと、それは人それぞれ。基本的には「J-WAVE」を聞いていることが多いのですが、なかには絶対「チューブ」が聞きたい!!!と騒ぐDr.がいたり、私物のCD(推定100枚)と私物のCDラックをオペ室内に常備しているDr.がいたりと、いろいろです。某G先生は、一時期ペットショップボーイズの「GO WEST」にはまっていて、2〜3時間のオペ中ずっとそれだけをリピートして聞いていました。今は手術が始まるとともに、オリジナルMDをかけて!と指示が出ます。1曲目は「ロッキーのテーマ」。手術とは”戦い”なのでしょうか?!


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